悔やむ

 休日には目黒の図書館に行くことにしている。朝から
図書館の本で興味があるものを漁りまくり、昼になったら
近くのコンビニで買ったおにぎりを外で食べる。そして
昼寝をする。そうするとまた集中力が戻り、同じように
漁れるのだ。


 別に勉強しようと思っているわけではないので、小難しい
学術書や時間の掛かる小説は読まない。イラストが多いほ
うがむしろいい。質より量を取り、少しの自己満足に浸る
のだ。


 その代わり図書館を出る頃には山のように本を借りて
帰る。ここは一回で二十冊、二週間借りれる。延長も可。
車がないので、二十冊は借りないけれど、今回は十五冊
借りた。料理でいうところのフルコースみたいな借り方を
心がけている。

 食前酒のエッセイ本
 前菜の旅行本
 メインの小説
 デザートのハウツー本
 
 こういう借り方をすると、いつもの肩掛けのバックには
入りきれないので、収納にすぐれたトートーバックを持って
いくようにしている。


 ベテランの司書も失敗はあるもので、ある本の防犯ブザー
の解除を忘れてしまっていた。


 私が出口から出ようとすると、甲高い電子音が図書館中に
鳴り響いた。


 急いで走ってくるおばさん司書。マニュアルにのっとり、こう
尋ねてきた。


「すみません。ブザーが鳴ってしまいましたので、何か鳴るよう
なものお持ちですか? 」
 私はトートーの中身を広げる。
「いや、ここで借りたものだけですけど」
「チェックしてもよろしいですか? 」
 そう言って二人して、貸し出しカウンターに戻った。
「ありました。この本が原因で鳴ってしまったみたいです」
 改めてバックから取り出した本の冊数を見ると、我ながら驚いて
しまう。計十五冊。外は雨。

「こんなに借りるなって話ですね」
「いえいえ、いいんです。私のほうが忘れていただけですから。私
も一緒に入り口までお送りしますね」

 果たして今度は防犯ブザーは鳴らなかった。別れ際に焦ったベテ
ラン司書が一言。


「これに懲りずに、またいらしてくださいね」

 

 私が悪いことしたみたいじゃないですか。その言い方。そん
な苦笑いが顔に浮かんでたのを見た司書は、

「懲りるじゃないですね。えーっと、飽きずに……違う。うーん
これに、これに……これにて一件落着! 」


 と、ピンクレディばりのお茶目なウィンクで場を締めくくった。
それまでの礼儀さから一転、遠山の金さんになってしまった司書。
いきなり頬を張られたように、びっくりして能面みたいな顔でベテラ
ン司書の顔を眺めていたのだろうと思う。寂しい思いをさせた。

  

 私は雨に濡れぬよう、必死でバックを守りながら夜の目黒通り
で考えた。

「あぁ、そうか! 一件落着のあと、奉行にひれふすように、
ははぁーっと声をあげるのが正解だったんだ! 」



 笑いのチャンスを活かしきれない自分に腹が立った。そんな失敗に
懲りずに次回こそはと心を改めた。


ふぃn


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