『あぁ題号バスケ部一年生』

 伝統ある部活には変な慣習がある。私が入っていた題号高校
のバスケ部にもそんな変な慣習があった。ただ、一つ言わせても
らうならばその当時の僕らが、この慣習について特別変だとか
おかしいなといった思いがあったかというと……いや、まったくない。


 インターハイ常連校でバスケをやる。その一心であえて男子校
を選び、クラスの友達がカラオケや繁華街に繰り出して遊んでいる
最中も、暗い閉め切った体育館で、汗と先輩の怒声に囲まれて練習
するのだから、普通の感覚自体が麻痺している。むしろ、麻痺か無知
か?その2つの感覚のどちらかがなければ、青春の高校生活を、
バスケットリングだけ見て過ごせなかっただろう。


 いわゆる古豪と言われていたバスケ部は部員自体が少なかった。
私が入部した当時、3年生6人。2年生7人で他にオーストラリアからの
留学生のスコットという部員がいたが、全部でたったの14人だった。
マネージャー無し。専属トレーナー1人。コーチ1人。監督1人。この
人数で全国大会まで出場し、優勝こそできなかったもののベスト4とか
8とかに食い込む実力を持っていたのだ。


 上級生は14人なのだが、入部した1年生は40人いた。同じ1年も
特待生は7人ほどいて、40人というのは一般入試で入学した期待の
新入生なのだ。この40人は部活に入部して間もなく減っていく。

 題号高校バスケ部の慣習の一つ“特訓”で振るい落とされるのだ。


 入部した頃からその恐ろしい噂が一年生の間で駆け巡る。

 私も2年生になってから気づいたのだが、特訓というシステムは
素晴らしい。まずは、多くなりすぎた1年生の人数をこの厳しいしご
きで振るい落とす意味がある。この特訓は逆に1年生が定数になる
まで終わることは無い。この定数も学年にもよるが大体7から10人。
それから少し辞めたりして、先輩達のように厳選された6,7人に落ち
着く。


 それに新学期が始まって1月ほど立つと、春休みから入部している
新特待生達がだいたい調子に乗りだすのだ。もともと才能が認められ
て入部している特待生だ。中学の頃にはキャプテン、県の得点王、
まぁ絶対的な王様だったわけだ。私の学年の特待生達は県選抜大会
で優勝した福岡代表チームの主力4人がいた。県代表で優勝した
メンバーが4人。言ってみればその年の全国4までが同じ部活
の一員になっているのだ。凄いのやら、恐れおおいのかがわから
い。この特待生は中学時代はチヤホヤされたものだから、すぐに
調子づいてくる。その鼻っぱしをぼきりと折り、歯向かわず、従順で
命令を聞くだけのロボットに仕立て上げる意味が2つ目だ。


 先輩後輩だけでなく、同じ1年生の中でも確実に権力ピラミッド
があった。かたやレギュラー候補、かたやそのレギュラーを支
えるピラミッド最下層の名も無き一般生。先輩達は40人もの一般生
の名前なんぞ覚えてもいないので、入学前の練習で名前を知って
いる特待生に命令を下す。その特待生が先輩の目が届かない
ところで、格が一つ下の推薦生に命令を流す。これまたその推薦生
は一般生に仕事を伝える。この伝言ゲームのような伝達方法で一
つの先輩の指令が遂行されるのだ。

 そういえばこんなことがあった。


 キャプテンの山平さんが、一年特待生の亀福にジュースを頼んだ、
 「亀福、ちょっとセンスでジュース買ってこい!部室にいるから持って
来いよ」

 亀福は山平さんが部室に入るのを見届けて、筋トレをしている推薦
生の林に声を掛ける。

 「林、山平さんがジュース買ってこいって!何でもいいけど、スポーツ
ドリンクがいいんじゃない?俺ストレッチしてるから 」

 それを渋々受ける林。同じ一年なのだが格が違うのだ。相手は入学
費から学費、それに寮費がただの特待生。かたや自分は入学費免除
のみの推薦生。お金を持って自販機に走ろうとした時、そこで掃除
をしている一般生の豊島を見つけた。

 「豊島、山平さんがジュース買って来いって!俺に渡して、もう時間
ないからダッシュで行ってきて」

 わけもわからずモップを投げ捨て走る豊島。雲の上の山平さんの頼み
だ。名前を覚えてもらえるチャンスだ。林からの命令であることには少し
の疑問も抱かない。階段を3段飛ばしで降り、息を弾ませて自販機の前
に辿り着く。そしてふと考える。


 「あれ、何買えばいいんだろう? 」

 一度も話したことのない、キャプテン山平の好みなど知るわけもなく、
手に握りしめている小銭から何の銘柄がいいのかを想像しなくてはなら
ない。

 「炭酸か、ポカリか、オレンジか、コーヒーか……」


 えい!ままよ!と押したのは豊島の好きなファンタグレープ。振らない
ように、でも急ぎながら駆け足で入り口に立っている林にファンタグレープ
を恐る恐る渡す。案の定、林の顔は曇った。

 「なんでファンタや やばいやろ」

 時間を惜しむ森は部室の前でストレッチをしている亀福に苦い顔でファンタ
を渡す。亀福の顔は泣きそうになった。

 「お前、普通ポカリやろ!どう考えたって」

 買いに戻る時間もなければ、小銭さえ運動着の2人にはない。しょうがなく
決死の覚悟で部室に入って、部室の奥で漫画を読んで笑っているキャプテン
にファンタを渡した。

 「なんでファンタやーーーーーーーーーー!!!!!!! 」
 部室の外まで聞こえる激しい叫び声。林も豊島も部室の外でぶるぶると
震えていた。2人の頭の中にあるのは、亀福の心配よりも自分達の心配だけ
だ。
 
 そして伝言ゲームの詳細がキャプテンにバレ、先輩の指令を他の奴に振っ
た亀福としていいしごきの対象になる。亀福には×1が付いたのだ。そして
亀福の怒りの矛先は林に。林は豊島にという連鎖がこれまた繰り返される。
 
 「亀福に謀反の恐れあり」。こういった流言飛語は上級生達の中を飛びかい、
特訓という古きよきスパルタしごきに対する、上級生の良心の呵責が薄められ、
一回きちんと締めとかないかんなという雰囲気が醸成される。

 これが特訓の3つ目の効果だ。


 さてその特訓なのだが、もう一つ、どのような特訓が行われたかを話す前に
最大の効果というものを説明しなければいけない。これこそが特訓の一番の
効果というか影響というか。微妙なところなのだが、特訓を受ける側にある
一種の連帯感というか排他間というか、よく言えばチームワーク、悪く言えば
「俺達はバスケットしか考えてはいけない」というような死地に赴く特攻隊の
ような決死の覚悟を生み出すのだ。


 特訓のしごきには連帯責任が付きまとう。40人の中で一人でもタイムが悪け
れば皆一緒になって走らされる。一人でもシュートを外せばまたカウントが0
に戻りもう一度最初からレイアップを始めなければならない。
 
 へばって走らされた原因を作った同じ一年に対しての憎しみはすさまじいもの
があった。一丸で殴ったりなどはないが、同じ空間にいても針の筵のような
いずらい感覚があり、その雰囲気に耐え切れず、また一人、たまにはどさっ
と40人いた1年生は辞めていった。

 特訓の回数が減り、厳選されてくると同じ1年の中ではピラミッドが崩れ、
格の違いなどなくなり、一緒に当面の強大な敵――それは全国の強豪校バ
スケ部ではなくて――薄ら笑いを浮かべてしごく2年や3年に負けないよう
頑張っていこうという気持ちが生まれる。特に指令部隊である3年の先輩
よりも実行部隊である2年の先輩に対しての怒りは生半可なものではなく、
部活が終わった後の2年の先輩に対する悪口はこの場では書ききれないほど
醜い。昨今の下手なラッパーなんかよりも、私達のほうが劣悪な環境と明確
にdisる対象があった。


 それでは、あの初めての特訓があった日を振り返ってみたいと思う。




つづく





 


 

 

 

 

この記事へのコメント

同校バスケ部出身者
2012年04月22日 14:07
事実に反する事を書いたらダメだよ~
一般生四十人は、通常の練習について行けなくてやめて、最後まで残った一般生は、1人だけ!

特訓を受けたのは、特待生だけだぞ!
夢は叶う
2012年04月22日 22:23
この題号高校という架空の高校出身の方ですか?すごい!頭の中の出来事が現実になってる…しかも、この物語の登場人物が話の流れまで指定してきてるなんて…

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